ロートルとは「古参」という意味の死語です。
「古参」という言葉は、古くからその職や地位にいる人のことです。

反対は「新参」じゃな!
もとは中国語の「老人」という意味で、「老頭兒」と書きます。
明治期の日本でも、「老人」という意味で使われていました。


太平洋戦争の終戦間際になると、「古参」という意味に変わってきます。
「ロートル兵」といった使われ方をしました。
戦後の1950年代以降に、スポーツ界などで、いわゆる俗語として、「役立たず」や「時代遅れ」といった使われ方をしました。
ネガティブな意味が強まり、「ロートル社員」 などの使われ方をしました。



カタカナで書く俗語のロートルが広まったのは、この頃じゃな
現代では使用者が減ったために、死語になっています。
そこで本記事では「ロートル」の意味や由来、死語になった理由をくわしく解説します。
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ロートルとはどんな意味なのかを解説


ロートルとは「古参」という意味の死語です。
戦後に老残兵のようなニュアンスになった


戦後になって俗語として意味が変化。
「年老いて戦闘能力が低下した兵士」を意味する「老残兵」のようなニュアンスで使われるようになりました。
太平洋戦争の時代に、ベテランの兵隊が「おれはもうロートルだから」と自嘲的に使うこともありました。
しかし、それは恥の文化であり、必ずしもネガティブなニュアンスではありませんでした。
ネガティブな意味を持つようになったのは、戦後のメディアの影響が強いと考えられます。



結果のだせないベテランのスポーツ選手を、メディアはロートルと呼んだんじゃ
スポーツ界で使われる批判的な俗語には、ほかに「A級戦犯」などがあります。
ロートルを使ったことば
ロートルを使ったことばには、以下の使用例があります。
使用例1 ロートル社員・ロートル人材


50歳をすぎたベテランの立場でありながら、「意欲がない」、「使いものにならない」ような社員を「ロートル社員」といいます。
さらに広い意味では、「ロートル人材」といった使い方をします。
使用例2 ロートル選手


競技において、若手選手の能力と比べて、大きく開きのあるベテラン選手を「ロートル選手」といいます。
多くは中心選手から外されてなお、いつまでも現役にこだわる選手を揶揄して使われます。
現代ではベテラン選手が現役を続けることは、尊敬が寄せられています。
使用例3 ロートル兵


古参の兵隊を「ロートル兵」といいます。
揶揄して使うほかに、自嘲したり、謙遜する場合にも使います。
使用例4 ロートルマシン


型落ちして、現代の必要に足りない旧式のパソコンを、「ロートルマシン」といいます。
ロートルの語源となった由来を解説


ロートルの語源となった由来を解説します。
ロートルは中国語の「老頭児」が語源
ロートルは中国語の老人を意味する「老頭児」が語源です。


江戸時代に実質的な国学だった儒学(儒教)の流れで、使われるようになったと考えられます。
儒教は古代中国の孔子が考えた、礼節をだいじにした道徳的な教えです。
明治時代の日本でも老人という意味で使われていた


明治時代に石村貞一が書いた『修身要訣』に、「老頭児」の記述があります。
『修身要訣』は、明治時代初期に出版された修身(道徳教育)に関する教科書です。
引用文に書かれているのは、「権力や財産のある人には媚びへつらったり謙虚にしたりするのに、権力も財産もなければ、昔からの付き合いの年長者でも無用な老人として扱う風俗は、なげかわしい」といった内容です。
第六
先進ノ長上ハ。或ハ其資財ヲ慕ヒテ故意ニ趨奉シ。或ハ其權勢ヲ畏レテ勉強シテ謙恭スレトモ。淡泊無為ニシテ。權勢軽ク資財少キ人ニ至リテハ。其年紀高ク。出入久キヲモミナ。指シテ無用ノ 老頭児 ト為シ。侮慢笑止セサル所ナシ。甚シキハ昨ハ親フシテ今疎ク。朝ニ恩トシテ暮ニ怨ムルニ至ル。以上コノ教種ノ風俗人情ヲ看ルニ嘅嘆スルニ堪エス。
大正14年にはまだ老人という意味しかなかった


大正時代の文献を見ても、まだ老人という意味で使われる言葉でした。
それは「うちの主人などは、もはやらうとつてゐるから」と云う其のらうとつてゐると云う意味がどうしてもわからない。~中略~結局是は多分細君の生国の方言であらうと独りぎめにきめてゐたのであるが、後日に至って、それは満州語で老人の事を 老頭兒 といふので、其老頭兒をラ行四段に活用させて、らうとら、らうとり、と云う風に使うのだと云うことがわかつた。
戦中にすでに老兵という意味で使われていた


1945年の終戦より以前に、すで「ロートル」は使われていました。
僕は○師団でね、と答へたところの黒いロイド眼鏡をかけた兵隊は、天神髭が相富なものになつたのを、さつき自ら日蘇もし戦はば、又後備大隊かなんかで満州へゆかなきやならんな、などといつておきながら、いかにも ロートル(老兵) くさい手付でしごきながら、語りだしたのが興をひいたから、書き付けておく。地名は伏せておくから、作り話だと思ふなら思ひたまへ。
ただし同時代の文献でも、老人という意味で「老頭児」を使っていたり、「そういう意味の支那語がある」と紹介している記述が多く、そこまで一般的ではなかったようです。
それでも戦中はまだ一般的には老人という意味だった


日本人が満州に進出したことで、中国語の「老頭児」ということばの接点が増えたことが、俗語の「ロートル」が生まれるひとつの遠因になったと考えられます。
滑稽のことには、日本人の中には、満支人の年寄りのことを一般に「老頭兒」と呼んで、男年寄りと女年寄りの区別をつけて居ないものが多いが、 老頭兒 はお爺さんのことで、お婆さんと呼ぶときは必ず「老婆兒」と言ふべきである。
戦後に俗語のロートルが使われ始めた


調べていると、特に「ベースボール・マガジン」誌に、「ロートル」の表現が目立ちました。
1950年代は赤バットの川上、青バットの大下など個性的な選手の登場や、ホームラン・ブームで、急速にプロ野球人気が高まった時期です。
「ロートル選手」、「ロートルチーム」など、号を重ねるなかで頻繁に使われています。
ここでの「ロートル」は、「役立たず」や「時代遅れ」といったニュアンスで使われています。
若さの勝利!巨人軍は ロートル・チーム である!こうした気持が南海軍の各選手の、心の底にあったよう……
どうして使わないのかね ロートル よりもつと新人を使つたらいい……
引用:『ベースボール・マガジン』第1次,8(1),ベースボール・マガジン社,1953-01. 国立国会図書館デジタルコレクション
また同時期に別ジャンルの文壇誌でも、「ロートル」の使用がありました。
「ロートル」ということばが、能力の足らなくなった古参という意味で、広く使われていたことがわかります。
ここでは大正期の詩人は殆ど骨董扱いにされ、実力のない ロートル は捨て去られ、昨日脚光を浴びてはなばなしく登場した新人が明日は色褪せてかえりみられなくなる。
1980年代までは一般的なことばだった


1980年代までは小説やエッセイなどで、「ロートル」は頻繁に使われていました。
私は、まだ三十五歳、決して ロートル とは思っていない。私は私なりのハイ・アドベンチャーを、ギャンブルを、自ら実践するだろうし、若い同人たちや、夜明け前の低迷するクライマーたちにも、一つの喚問をなげだしたい。
調べていると、やはり軍隊と「ロートル」ということばは、結びつきが強いようです。
3ヶ月の新兵教育は団体行動に馴れない ロートル には骨身にこたえた。教育が生温かいとの非難もあったようだが私らは精一ぱい努力したと今でも自負しております。
典範令を仇名された菅野教官は厳格な中にも温情があってよく ロートル を庇ってくれ、満人部落の畑跡を掘り起こして腹一ぱい芋を食わしてくれた記憶もある。
引用:兵站勤務第74中隊大肚子会 編『兵站勤務第74中隊記』記録編,兵站勤務第74中隊大肚子会,1978.1. 国立国会図書館デジタルコレクション
1980年代までは「ロートル」はよく使われることばでした。
「いや、ちょっとじっくりと、あのお袋さんと話し合ってみようと思ってさ」
「ああ、それはいいかも知れないな」
「ロートル 同士で、気の合うこともあるやも知れずでね」鍋島が、そう言いながら水木に目を向けると、水木はタイミングを外すように、ポケットからタバコを取り出した。
浦沢直樹「パイナップルARMY」


浦沢直樹の初期の作品で、「パイナップルARMY」の作中に、「ロートル」ということばがでてきます。
「心配におよばん。それに死ぬのがこわくて傭兵をやめたお前に何ができる。俺から見たらお前ですらもうロートルだ」というセリフです。
1985年から1988年まで、工藤かずやの原作で、小学館の「ビックコミックオリジナル」で連載されました。
機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY バニング大尉


1990年に製作された機動戦士ガンダムのOVA、「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」でも、「ロートル」ということばが使われています。
主人公コウ・ウラキの上官、サウス・バニング大尉の「ああ、おれももうロートルかあ」といったセリフです。
それまでのガンダムシリーズとは違って、超常的な知覚を持つニュータイプが登場人物にでてこない、画期的な作品でした。
作中のバニング大尉は一年戦争から活躍してきた、地球連邦軍のエースパイロットでありながら、肉体的な衰えを感じる役どころです。
2000年頃からあとはロートルは死語になった


2000年頃まで「ロートル」ということばは、まだわずかに使われていましたが、その後は次第にほとんど使われなくなっていきました。
こうした ロートル の選手に頼らなければならないのでは、来年以降はどうなるのだろう……
引用:『週刊ベースボール』55(31)(2413),ベースボール・マガジン社,2000-07. 国立国会図書館デジタルコレクション
現在は学術論文などで、語彙の豊かな年配のインテリ層が使うことばになっています。
これは1980年頃まで文芸などで「ロートル」ということばがよく使われていた中で、インテリ層は読書体験が豊富なためだと考えられます。
ロートルが死語になった理由を考察


現代では「ロートル」は死語になっています。
使う人がほとんどいなくなったため、ことばとして意味がつうじにくくなっているからです。
そこで「ロートル」が死語になった理由を考察します。
1950~1960年代に影響を受けた世代が現役を退いたから


俗語としての「ロートル」が、もっともよく使われたのは、1950年代です。
1950年代に幼少期をすごした団塊の世代は、ここで多大な影響を受けました。
そのあと、団塊の世代が社会に進出すると、「ロートル」を一般的なことばとして使用して定着したと考えられます。
「ロートル」を使っていた団塊の世代が、社会の中心から退いていくと、自然と使用者が減って、「ロートル」は死語になっていきました。
自然とメディアでの「ロートル」の使用頻度が減ったから


「ロートル」の使用者が社会の中心だった時代をすぎると、一般的な会話での使用者が減ると同時に、メディアでの使用例も減っていきました。
「ロートル」ということばを見聞きする機会が減ったことで、若者世代には馴染みのないワードになりました。
ロートルというワードの親和性が高かった軍隊と距離ができたから


「ロートル」は「ロートル兵」として使う場面も多かったため、軍隊と親和性の高いことばでした。
しかし軍隊を持つことをやめた日本では、軍隊を意識する場面や、旧日本軍をモデルにした文芸作品が減りました。
社会が軍隊と距離ができたことで、自然に「ロートル」ということばに触れる機会が社会的に減りました。
人口的に若者が社会のボリュームゾーンではなくなったから


人口のボリュームゾーンが若者世代だった時代には、ベテラン層を突き上げる圧力が強い側面がありました。
戦後の1950年~1980年代は、社会的な雰囲気として、未来は若者たちのためにありました。
自然と結果のために、「若手に道を譲るべき」といいやすい空気がありました。
しかし人口が減っていく現代の人口オーナス期では、人口のボリュームゾーンは団塊の世代の75歳前後と、団塊ジュニアの50歳前後です。
少子化で若者世代の構成が減り、ベテランを「ロートル」として突き上げる圧力は機能しにくくなりました。


ベテランが活躍できる社会になったから


日本人の平均寿命は2023年女性が87.14歳、男性が81.09歳と伸びつづけています。
健康寿命も2001年で、男性が69.40歳、女性が72.65歳。
2023年は男性が72.7年、女性が75.4年とのびています。
人生100年時代になり、少子化も手伝って、ベテランが社会で長く活躍する時代になってきています。
またスポーツの世界でも、50歳をすぎてもプロの現場で闘いつづける選手もでてきて、尊敬を集めています。
参考:
表4 人口の平均年齢,中位数年齢および年齢構造指数:中位推計|国立社会保障・人口問題研究所
差別的な用語が好まれない社会になったから


世界的にリベラルな平等思想が浸透したことで、現代では差別的な用語を使えば、ネットで糾弾されるほど、思想的な清潔さが求められる時代になりました。
リベラルとは個人の権利をだいじにするという考え方です。
カタカナの「ロートル」は、「役立たず」や「時代遅れ」といったニュアンスを持っているため、現代で表立って使うには、不適切なことばになっています。
老害という直接的なことばが生まれたから


「若手に道を譲らなないベテラン」の世代が、「いつまでも現場で自慢げに講釈をする」など、下の世代にとって迷惑と感じる行為を、現代では直接的に「老害」と呼びます。
「ロートル」は「そろそろ道を譲ってほしい」という若手の願望と、「そうはいっても敬うべき先達」というニュアンスの両方を含んだ、若者側の目線のことばでした。
しかし「老害」は、「すでに『害』になっていることに気づいていないベテラン世代」という、ベテランの側の責任という、主体を向こう側に置いたことばになっています。
日本のムラ社会的な「迷惑」という見方を、相手の側に責任を置く、現代的な価値観に社会が変わってきています。
ロートルは何歳から?
よくある質問に「ロートルは何歳から?」というものがあります。
ロートルは55歳から
ロートルのひとつの定義として、「若手に道を譲るべき年代」という見方があります。
一般企業で組織の若返りをはかる目的で、後進に道を譲る制度として、役職定年があります。
役職定年として、55歳から60歳が設定されることが多くなっています。
現代では55歳がロートルと考えられます。
ロートルについてのよくある質問
「ロートル」についての、よくある質問に回答します。
ロートルが普及した理由は?
- 「ロートル」という言葉が、日本で使われる理由は何ですか?
今まで「ロートル」ということばはカタカナで書かれているため、欧米のことばだと考えていました。
しかし最近になって、「老頭児」という中国語が語源と知って驚きました。
そこで中国語が語源の「ロートル」ということばが、日本で世の中に普及したの理由した理由を教えてください。 -
ひとつは江戸時代に儒学が発達して、「老頭児」ということばに触れる機会があったことと、戦中に支那語(中国語)として紹介されたことがきっかけです。
普及したのは1950年代にスポーツ界で、メディアを中心に「若手に道を譲るべき」という文脈で、「ロートル」という俗語を多用したことです。
- 一般企業で、自分の事を「ロートル」「年寄り」と呼ぶにふさわしい年齢は、何歳以上でしょうか?
-
一般に役職定年のある55歳からです。
企業によって役職定年の設定は異なります。
ロートルまとめ
ロートルとは「古参」という意味の死語です。
1950年代に後進に道を譲るべきという見方から、、「役立たず」や「時代遅れ」などのネガティブなニュアンスを持つようになりました。
ベテランが活躍する現代では、差別的なニュアンスを持つため、死語になっています。
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