「ファジー(fuzzy)」は1990年に流行した「あいまいさ」を意味する言葉です。
「ファジー」はもともと英語で、衣類などがふわふわ「毛羽だつ様子」からきています。
「fuzzy sweater(ふんわりしたセーター)」という表現をします。

日本での流行のきっかけは、1990年にブームになった「ファジー家電」です。
「ファジー家電」はたとえば洗濯機の仕上がりを、「ファジー理論」という数学を利用して、「ちょっとだけ弱く」など中間のコントロールが自動でできる、高機能家電でした。

今でいう「AI搭載家電」のようなものじゃな!
俗語としての「ファジー」は当時、日本社会に広がりを見せました。
会社に忠誠心のない若者を「ファジー君」と呼んだり、山下証券から「ファンドファジー」という投資商品が販売されたりしました。



しかし俗語としての「ファジー」が流行したのは1990年代前半だけで、すぐに死語になったぞい!
そこで本記事では死語になった「ファジー」の意味や由来を詳しく解説します。
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「ファジー」の意味を解説


「ファジー」は、「あいまい」という意味の言葉です。
「ファジー」は衣類などの毛羽から「あいまいさ」を表す言葉
「ファジー」は衣類などの「毛羽のような」という意味から、「あいまいさ」や「不明瞭さ」、「ぼんやりした」という意味を表す英語です。
スペルは「fuzzy」です。
「ファジー」が一般化したのは、黒か白かはっきり決めない、人間くさい数学「ファジー理論」が、鉄道や家電品に応用されるようになったことがきっかけです。
1990年の流行した時期には、「ファジーな気分」といった使われ方もしています。
「ファジー」の語源や由来を詳しく解説


「ファジー」はもともと、「あいまいさ」を表す英語です。
「ファジー」が日本に一般化されたきっかけは、「ファジー理論」という数学をもとにした、「ファジー制御」が鉄道や家電品に応用されたからです。
日本で1990年に「ファジー理論」を取り入れた「ファジー家電」がヒットして、「ファジー」が流行しました。
英語の「fuzzy」の語源は一説には低地ドイツ語
一説には低地ドイツ語で、「ゆるい」、「スポンジ状」という意味の「fussig」が語源とされています。
ザデー教授が提唱したファジー理論


「ファジー理論」は黒か白だけをはっきり決めない、「あいまいな結果」を求める人間くさい数学です。
1965年にアメリカ・カリフォルニア大学のL・A・ザデー教授(Professor Lotfi A. Zadeh)が考えました。
「ファジー理論」では「今日は暑い日ですか?」という質問に対して、「暑い」、「暑くない」以外の、「あいまい」な答え を数字で用意します。
「ファジー理論」で暑さを「0から1」の間で表す
- 0 = まったく暑くない
- 0.3 = ちょっと暑い
- 0.7 = かなり暑い
- 1 = とても暑い
人間の「あいまい」な感覚を数字で表すことで、コンピューターでも答えをグラデーションのように扱えます。
この考えを利用すると、人間の「熟練の技」を機械で再現 できるようになります。
つまり自動だと「アクセル」と「ブレーキ」の2つしかなかったのが、「軽くブレーキをかける」といった、人にやさしい微妙なコントロールができるようになる ということ。
しかし近代科学では、「0」か「1」の答えが好まれたため、すぐに注目されることはありませんでした。
NASAがファジー理論の採用を検討して注目が集まった


「ファジー理論」は1980年代に、アメリカのNASAが採用を検討したことで、注目を集めました。
NASAは、宇宙でのドッキングの制御や、スペースシャトルの姿勢制御に「ファジー理論」の応用を検討。
日本でも科学技術庁が「ファジィ研究会」を組織したり、1989年3月に横浜に国際ファジィ工学研究所を設立するなど、注目が高まっていました。
米国のNASA(米航空宇宙局) では、スペースシャトルを宇宙基地にドッキングさせるときのシャトルの姿勢制御、 あるいは、シャトル打上げ時に、ミッションコントロールセンターに送信されてくる膨大なセンサー情報、異常を早期発見するためのシステムへのファジィ理論の応用に興味を持っており、88年には、ファジィ理論とニューラルネットワーク (脳と神経をモデルにしたネットワーク)の融合をテーマとした国際会議を主催した。
引用:世界経済情報サービス 編『Techno current』(19),WEIS,1989-10. 国立国会図書館デジタルコレクション
1987年に仙台市の地下鉄でファジー制御による自動運転を採用


1987年に日本で初めて仙台市で、ファジー理論を採用した、自動運転の地下鉄が走りました。
ファジー制御を応用した乗り物や機械の登場で、日本でファジーが知られていくようになりました。
仙台市の地下鉄は、やさしくブレーキをかける「あいまい」な制御ができたため、なめらかな乗り心地で好評でした。
一方、三年前に開業した仙台市営地下鉄は、ファジー制御による自動運転システムを世界に先駆けて採用、ベテラン運転手に近い滑らかな乗り心地を実現、お年寄りでもつり革につかまらないで立っていられるほど。 東京都交通局でも、来春に開通する都営地下鉄1号線で同じシステムを導入する。
引用:西高郁夫 著『21世紀への提言 : 技術革新・政治解体理論』,パテント社,1991.8. 国立国会図書館デジタルコレクション
日本の地下鉄などで、ファジー理論が実際に役に立つことがわかったと、当時のNASAも注目していたことが記録に残っています。
「ファジー家電」でファジーが知られるようになった
日本で「ファジー」が知られるようになったのは、「ファジー家電」のヒットでした。
火付け役は、1990年2月1日に発売の、松下電器(現PANASONIC)の洗濯機、「愛妻号Day ファジィ」。
当時はまだ全自動洗濯機が普及していなくて、まだまだ二層式洗濯機を使っている人が多い時代でした。


当時の家事労働を担っていた主婦には、「洗濯物の量」や「汚れ具合」を目で見て、「水位はこれくらい」、「洗濯時間はこれくらい」と経験とカンで決めている人が多く、全自動洗濯機はまだ信用されていませんでした。
そこで松下電器は約2年の開発期間で、ファジー理論を取り入れた商品を開発。
「メーカーが決めたルールを押しつけられているようで抵抗感がある」という主婦にも通用する商品で、ヒットにつながりました。
「ファジー家電」の内容としては、センサーが汚れやホコリの量を見て、自動制御するというもので、今の「AI搭載家電」と同じようなものです。
「愛妻号Day ファジィ」のヒットを皮切りに、各メーカーも「ファジー家電」を発売。
当時の各メーカーの商品訴求
「ベテラン主婦のカンとコツを生かした……」(日立「静御前これっきりボタン」)
「ベテラン主婦のように洗濯物・洗剤・水温に最適の洗濯方法を……」 (三洋「とけトロンファジー」)
ほかにも、ビデオカメラや電子レンジなどの「ファジー家電」が、続々と発売されました。
当時のファジー家電の売上ベスト3
- 洗濯機
- 炊飯ジャー
- クリーナー
(第一家庭電器調べ)
ただし、ユーザーみずから「ファジー家電」を買いに行く、ということは少なく、ほとんどの場合は家電販売店で説明を受けた結果として、「せっかくなら……」と選んでいました。
東京・秋葉原のある電気店でも「ファジー製品を、ということでいらっしゃるお客様はまだほとんどいらっしゃいませんね。 店に来られて、説明を聞いて、せっかく買うんだから最新型の新しい機能が付いているものを、ということでファジー制御のものを買われる方が多いですね」という。
引用:国民生活センター 編『たしかな目 : 国民生活センターの暮らしと商品テストの情報誌』(59),国民生活センター,1990-11. 国立国会図書館デジタルコレクション
ファジーの広がりは清酒や金融商品まで


ファジー制御は当時、清酒メーカーや、山下証券の金融商品「ファンドファジー」にまで広がりを見せていました。
「ファジー理論」の導入は、清酒や株など投資の世界にまで入り込んでいる。
清酒メーカーの月桂冠では、 もろみの発酵工程にファジー制御を導入した。
これは、広島、 秋田、 但馬、 丹波、 越前、南部 の全国酒どころの6流派の杜氏のノウハウをまとめてルール化し、 手作りの味と同じ品質の酒づくりに成功したものである。
また、山一証券は昨年10月から、 ファジーによる証券投資商品 「ファンドファジー」を売り出している。
株のエキスパートの知識を入力してあるので、信頼性が高いということになってからの株の暴落で、 「ファジーさん」がどのくらい健闘したかどうかはいまのところ、定かではないがそれはともかく。
1990年の新語・流行語大賞で金賞に選ばれる
1990年のユーキャン新語・流行語大賞で、「ファジィ」が金賞に選ばれています。
「ファジィ」とは“あいまい”という意味の言葉で、カリフォルニア大学のザデー教授が開発した「ファジィ工学」で一躍有名になった。「経験」や「勘」といった、コンピュータでは処理できないといわれていた“あいまい”なものをプログラミングする理論で、日本でこの理論を家電製品に応用・実用化したのは、松下電器の洗濯機が第1号。ブームのきっかけをつくった。以来、各メーカー入り乱れて盛大なファジィマーケットができあがった。
引用:「現代用語の基礎知識」選 1990年のユーキャン新語・流行語大賞 第7回1990年受賞語
ファジーは流行して一般に使われていた
ファジーが流行してしばらくは、「ファジーな気分」など、「ファジー」という言葉は一般に使われていました。
1995年7月17日から2013年7月29日まで、講談社の「週刊ヤングマガジン」で連載された漫画、「頭文字D(イニシャルD)」にも、「ファジーな結果だなァ……」というセリフがあります。


- 引用:講談社「頭文字D(イニシャルD)」第14巻 p.218 158話「追求」
忠誠心はないが仕事は無難にこなす「ファジー君」
バブル崩壊した1990年の、彩文社の『知識』では、「ファジー君が会社にやってきた」という特集を組んでいます。
バブル期までの「企業戦士」から、若者の価値観の変化を、「ファジー」としてとらえています。
記事では「時間にルーズな人間」というような後ろ向きの評価ではなく、むしろ、「優秀で、物事の変化に柔軟に対応でき、熱血漢ではないがセンスのいい若者たち」と定義しています。
記事にあるファジー君の特徴
- 仕事より個性を大事にしたい
- 副業をさらりとこなす
- 仕事はそこそこに演劇やイラストに力を配分する
- 余力を残すために上司とケンカはしない
- 組織に忠誠心や愛着がない
- 情報通
- 冷静で大人だが期待以上の仕事はしない
- 転職に抵抗がない
- 給料より休暇で判断したい
今の時代から見ると、あまり違和感がありません。
経済的な充実を追っていても、幸福が期待できない時代の変化のグラデーションが、ちょうど流行していた「ファジー」とうまく合っていたようです。
「ファジー」が死語になった理由を考察


「ファジー」は1990年に俗語として日本で流行しましたが、すぐに廃れて、死語になりました。
自動制御が一気に普及して当たり前になった
「ファジー」は人間がコントロールしていた操作を、人間らしい「微妙な操作を再現」できるものとして、流行語になりました。
死語になった理由は、自動運転の洗濯機やビデオカメラなどが、すぐに当たり前になってしまい、「ファジー」という言葉に特別感がなくなったからです。



たとえば車も、馴れてしまえばオートマ車が当たり前で、あえてマニュアル車と区別しなくなるのと同じじゃぞ
俗語として流行した「ファジー」は、現在では死語になっています。
ただし「ファジー制御」や、同時期に流行した「ニューロシステム」は、 駐車場、 ビルの管理、エレベーター、雨水の排水システムなどで、 現在も利用されています。
「ファジー」の類語や言い換え


「ファジー」の類語や、言い換え、関連語を紹介します。
ファジー集合論
ファジー理論の中核。
ファジー制御
ファジー理論を利用して、グラデーションのように1と0の中間を数値化して、機械を制御すること。
AI
「ファジー家電」はセンサーなどで、家電が考えて調節してくれると宣伝されて、ヒットしました。
現在の「AI搭載家電」も、生成AIほど高度な処理をしているわけでなく、自動制御に特別感を持たせる意味では、俗語としての「ファジー」と扱い方は同じです。
アバウト
「およそ」、「だいたい」という意味で使います。
中間の度合いを表現するファジーとは、ニュアンスが異なります。
「おおざっぱ」という意味で使う場合もあります。
オートファジー
「オートファジー」は、古くなったり壊れてしまった細胞を、集めて片づけたあとに、新たな細胞にリサイクルする働きです。
語源はギリシャ語。
日本語の発音は、ファジー理論と同じファジーですが、まったく別の意味です。
スペルも「Autophagy」で「fuzzy」と異なります。
体重を落とすだけでなく、腸内環境の改善も期待されています。
「オートファギー」という場合もあります。
オートファジーダイエット
「オートファジーダイエット」は、一日で食べる時間と、食べない時間を明確にわけるダイエット法です。
食べない時間が長くなると、体の中を掃除するオートファジーが働いて、古くなった細胞やよけいな脂肪を、片づけてくれると考えられています。
ファジーゾーン
サッカー用語で、フィールドの中間のエリアのこと。
ファジーネーブル
リキュールから作るカクテル。
ピーチリキュールに、オレンジジュースを混ぜて作る。
ピーチとオレンジが入り混じった「あいまいな味」が語源。
Conton Candy の楽曲「ファジーネーブル」も人気です。
格闘ゲームでのファジー
格闘ゲームにおいて、中段や下段の時間差を利用して、攻撃したり守ったりする技術を「ファジー」と呼びます。
「ファジー」まとめ
「ファジー(fuzzy)」は1990年に流行した「あいまいさ」を意味する言葉です。
「ファジー家電」のヒットから世の中に知られるようになりました。
「ちょっとだけ弱く」など、「強い」と「弱い」の中間のコントロールを自動でしてくれる、「ファジー制御」が利用されていました。
自動で調節してくれる機能自体が、すぐに当たり前になってしまい、俗語としての「ファジー」は死語になりました。
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「ファジー」についてのよくある質問と回答
「ファジー」についてのよくある質問に回答します。
ファジーは死語ですか?
- ファジーという言葉は、すでに死語ですか?
-
俗語としてのファジーは死語です。
機械を自動で動かすときに、人間が扱うように、自然の力でコントロールするためのファジー制御は、今でも応用されています。
俗語としてのファジーは、ファジー制御が家電などに取り入れられ、注目された1990年に流行しました。
ファジーが流行したきっかけは?
- ファジーが流行した時代、いつ、何がきっかけで流行したのでしょうか?
-
俗語としてのファジーが流行したのは1990年で、同年にユーキャン新語・流行語大賞の金賞も受賞しています。
きっかけはファジー制御を取り入れた、ファジー家電のヒットです。
ファジー制御は、オンかオフの2つではなく、グラデーションのように中間の力を数値化して制御することができます。
ファジーが死語なら言いかえるならアバウトでいいですか?
- あいまいな、という意味のファジーが死語になった今は、言いかえるならアバウトでいいでしょうか?
-
アバウトは「およそ」、「だいたい」という意味で使う言葉です。
「あいまい」という意味のファジーより、ネガティブな印象を持つ場合があります。
「あいまい」や「微妙に」などの日本語を使うほうが適切です。
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